「なぜ人は山嶺(いただき)を目指すのか」ーー原作の予備知識も無いまま山とカメラという組み合わせだけで『エヴェレスト 神々の山嶺』を観てきました。岡田 准一、阿部 寛、尾野 真千子 出演。夢枕 獏のベストセラー山岳小説「神々の山嶺」の映画作品です。
日本映画(2016年2月公開)
毎年この時期は子供たちと「ドラえもん 」を観に行くのだが、「お父さんだけ他の映画観てもいい?」と相談したところあっさりOKの返事。昨年観た「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」の時にちらりと予告されていた本作を選択しました。
冒頭から至近距離の滑落事故をキヤノンのカメラで撮影し続けるという、人として信じられない行動をとる主人公。本作は、G・マロニーの謎を解明して金儲けしようとするカメラマンと、己の名誉のために前人未踏の登攀ルートにこだわり続ける登山家との交流を描いた物語である。自然を前にすると、どんな人間でも「生きる」という本質にたどり着くというストーリー展開なのだが、最初から最後まで違和感の連続でした。
一般人が山頂を目指すのは、純粋に山が好きだからという想いが根底にあると思うが、命をかけて冬山に挑戦するなんて普通はありえない話だ。しかし、羽生丈二のモデルとなった登山家は実在する。
- 「1956年、日本人初の8,000m峰となるマナスル(8,163m)に登頂したことで登山ブームがわき起こり全国各地に多くの山岳会が生まれました。1960年代から80年代にかけて国内の多くの山や岩場で新規のルート開拓が行われました。更に海外でも日本人の先鋭的なクライマーによる登山史に残る登攀も行われました。森田さんはその代表的な一人です。事故も起きました。自然破壊も行われました。より困難なルートや条件で頂上に立つことに重きが置かれました。赤い炎が燃えさかっていたような時代でした」(2016、長野県山岳総合センター)
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原作小説・漫画
その後、原作小説や漫画を購入して読んでみたのだが、主人公の深町誠は山とカメラを愛す、映画とは180度違う人物でした。最初に違和感があった滑落事故のシーンも、原作は寒冷地仕様のニコンF3と超望遠レンズで離れた位置から目撃して、つい条件反射で撮影してしまう。それがずっと脳裏から離れないことが描いてあった。
小説や漫画を読み続けているうちに、映画で疑問に思った部分が次々と解消されていく。また、実在した伝説の登山家達の逸話を映画よりも詳細に読むことができる。作者自身が実際にエベレストのベースキャンプに滞在したり、実際に南西壁から登頂した登山家に話を聞いて小説や漫画を書いているため、エベレスト登山のリアリティが半端ない!
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アニメ映画(2021年公開)
- 監督: パトリック・インバート
- 原作:「神々の山嶺」作・夢枕獏 画・谷口ジロー(集英社刊)
- 原題:LE SOMMET DES DIEUX
- 翻訳:光瀬憲子
- 声優:堀内賢雄 大塚明夫 逢坂良太 今井麻美
- 配給:ロングライド、東京テアトル
- 2021年/94分/フランス
- 「作・夢枕獏 画・谷口ジローの漫画「神々の山嶺」は、もともとフランスで絶大な人気を誇り、2011年にはフランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエ章を授与された谷口ジローは、同国の製作チームのもとを二度訪れ、作画やストーリーの確認に携わっていた。惜しくも完成版を観ることは叶わなかったが、構想から完成まで実に7年を費やした本作は、第74回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されたのち、フランスの300以上の劇場で公開され、大ヒットを記録。同国のアカデミー賞にあたるセザール賞では長編アニメーション映画賞を受賞した」(2022、公式サイト)
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あれから7年、、、
思い出の作品がなんとフランスの地でアニメ化された。生と死にフォーカスした本作は、とても心に刺さる映像作品でした。映画というのは作り手によってこうも変わるものか。
私自身も多少なりとも登山経験が増えたこと、昨年末にBS-TBSで放送された日本人登山家・冒険家の志水哲也氏、田中幹也氏、山岸尚将氏の衝撃映像を観たばかりだったので、本作をより一層楽しめた。
人は追い込まれると「無理だ」とか「つらい」と弱音を吐くものだが、そういった心の葛藤を描くシーンは一切なし。主人公が羽生丈二の後を追って、危険を顧みずに淡々と進んでいくシーンが特に印象深かった。私がもし友人を同じ追いかける立場だったとして、本当に正しい判断ができるのだろうか。